症例紹介

初診時

患者さんは、かかりつけの歯科医院にて治療を受けていましたが、「保険治療でできるだけのことはしたがこれ以上は難しい。今は自費での根管治療もあるので、抜歯する前に一度診てもらう？」とを言われ、かかりつけの先生に提案され、来院されました。
右上６には打診痛はありませんでしたが、頬側にサイナストラクトがあり、頬側中央に4-5mm程度のポケットがありました。
CT画像上では頬側２根と口蓋根にそれぞれ病変があり、近心頬側根は破折やエンドペリオ病変・穿孔が疑われる所見でした。

すでに複数回根の治療がされてことにより、歯自体も薄くなっており、保存が難しいところではありました。

一度ご検討いただくため、お持ち帰りいただきましたが、後日患者様より治療の希望があったため、まずは再根管治療を行い、それでも治癒しなかった場合は、外科的歯内療法を行う旨を説明し、次回より治療を開始することにいたしました。

治療1回目（再根管治療）

まず麻酔を行い、残っていたプラスチックの土台や虫歯を除去していきました。
染め出しを行い、虫歯がないのを確認してから、以後の治療がしやすいようにコンポジットレジンで隔壁を行い、ラバーダム防湿をしていきました。
近心頬側根と遠心頬側根は穿通しましたが、口蓋根は穿通しませんでした。
近心頬側根の先に残っていた材料を除去すると、根尖よりジワッと膿が出てきました。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液で洗いながら吸引を行い、ファイルで拡大形成を行い、一旦水酸化カルシウムを貼薬し、仮蓋をして終了しました。

治療2回目

前回治療終了後に少し痛みが出て、サイナストラクトも縮小しているようには見えましたが、まだ圧痛があるような状態でした。
再びラバーダム防湿を行い仮蓋を外し、追加で各根管を拡大形成し、再度次亜塩素酸ナトリウム水溶液での攪拌洗浄と吸引を繰り返し行いました。
近心頬側根の排膿は最終的には治まりましたが、滲出液が出てくるような状態でしたので、再度水酸化カルシウムを貼薬し、仮蓋をして終わりました。

治療3回目

術前の診査ではサイナストラクトが瘢痕状態になっておりました。
場合によっては、難易度の高い口蓋根の歯根端切除術になる可能性もあったため、全ての根管をMTAセメントにて充填することにいたしました。
次亜塩素酸ナトリウム水溶液とEDTAにて攪拌洗浄を行い、滲出液がおさまったタイミングでMTAセメントにて根管充填を行い、この日は終了いたしました。

治療4回目

前回治療終了後は特に痛みもでず、サイナストラクトの再発等もありませんでした。
ラバーダム防湿を行い仮蓋を外し、ファイバーポストを口蓋根に試適した後、レジンコアを気泡が入らないように充填し、ファイバーポストを挿入し、光重合を行いました。
術後にデンタル撮影を行い、患者様には一緒に経過を見ていくことを説明し、治療を終了いたしました。

経過観察（１年）

その後、術後３ヶ月の時点で臨床症状は改善し、画像上でも病変の縮小傾向がありました
術後1年の経過観察時のCT画像上では、病変が治癒しておりました。

「抜歯と言われてましたが、今は何の違和感もありません！大事にします。ありがとうございます。」とのお言葉をいただきました。
病変のある根っこが穿通しなかったり、滲出液がなかなか止まらないような状況により、治療回数はかかってしまいました。
治療中も長時間頑張って口を開けてくださっていたことを思うと、無事に病気が治ってくれてとても嬉しいです。
引き続き、大切な歯を少しでも残せるように、日々精進してまいります。

※これらすべてのX線写真やCT画像は、歯の保存治療普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。