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骨粗鬆症患者さんに対して、歯内療法および外科的歯内療法をどのように提供にすべきか

  • 院長ブログ

歯内療法の目的は、根尖病変を治癒させる&予防することです。そして、根管治療で治らない歯に対して歯根端切除術や意図的再植術などの外科的歯内療法は、根尖病変を治す手段としては無くてはならないものです。しかし、全身疾患などが原因で外科処置をしても良いかどうかの判断が難しいケースも存在します。有名なところで言うと、骨粗鬆症によりビスフォスフォネート系薬剤(BP製剤)の治療を受けられている患者さんは、歯科処置や局所感染に関連して顎骨壊死(osteonecrosis)・顎骨骨髄炎(osteomyelitis)が発現することがあります。いわゆる「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死(ARONJ)」です。このことは、同薬剤の添付文書に「使用上の注意」として明確に記載されております。また、BP製剤による治療を受けておられる患者さんが、う蝕や歯周病による感染により根の先や歯の周りの骨を失っていくと、抜歯や根尖周囲手術(歯根端切除術や意図的再植術など)等の外科処置を行わなくても「自然発生」的に骨露出が生じることもあります。

根尖病変の治癒を目的にしているイチ歯科医師として、いくつかの論文をもとに骨粗鬆症の治療を受けている患者さんを対して、どのように歯内療法および外科的歯内療法を提供していくのが良いか考察していきたいと思います。

まず、「骨吸収抑制薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー 2016 」の中の「骨吸収抑制薬の投与を受けている患者の侵襲的歯科治療」の項目を見てみます。

『骨吸収抑制薬の治療を受けている患者に対して歯科治療を行う際に、骨吸収抑制薬投与をそのまま継続するか、あるいは休薬するかについては様々な議論がある。それらを整理すると、

①骨吸収抑制薬の休薬がONJ発生を予防するか否かは不明である。
②骨に長期間残留するBPの物理化学的性質から推測すると、短期間のBP休薬が BRONJ発生予防に効果を示すか否かは不明である。
③日本骨粗鬆症学会が行った調査結果では、骨粗鬆症患者においてBPを予防的に休薬してもONJ発生の減少は認められていない。 

④BPの休薬により骨粗鬆症患者での症状悪化、骨密度低下および骨折の発生が増加する。 

⑤発生頻度に基づいた場合に BRONJ 発生のリスクよりも骨折予防のベネフィット(有益な効果)がまさっている。 

⑥BRONJ 発生は感染が引き金となっており、歯科治療前に感染予防を十分に行えば BRONJ 発生は減少するとの結果が示されている。この報告で注目されるのは、口腔の他の部位に以前にBRONJが発生したことがあり、ONJ発生のリスクがきわめて高いがん患者においても、感染を予防すれば新たなBRONJは発生しなかったという結果である。したがってBRONJ発生予防には感染予防がきわめて効果的、重要であることが示唆される。 

⑦米国歯科医師会は、骨粗鬆症患者におけるARONJの発生頻度は最大に見積もっても 0.1%程度であり、骨吸収抑制薬治療による骨折予防のベネフィット(有益な効果)は、ARONJ発生のリスクを上回っており、また骨吸収抑制薬の休薬はARONJ発生リスクを減少させる可能性は少なく、むしろ骨折リスクを高め負の効果をもたらすとの見解を示している。 

これらの背景を Evidence-based Medicine(EBM)の観点に基づいて論理的に判断すると、侵襲的歯科治療前の BP 休薬を積極的に支持する根拠に欠ける。 

しかしながら、一方において米国 Food and Drug Administration(FDA)のアドバイザリーボード(http:// www.fda.gov/downloads/AdvisoryCommittees/CommitteesMeetingMaterials/Drugs/DrugSafetyandRiskManag ementAdvisoryCommittee/UCM270958.pdf)、AAOMS8, 16)およびその他のいくつかのグループは骨粗鬆症患者においてBP治療が4年以上にわたる場合には BRONJ発生率が増加するとのデータを示している。これらの報告はいずれも後ろ向き研究の結果であり、症例数も少ないため慎重に解釈されなければならないが、AAOMS は骨吸収抑制薬投与を4年以上受けている場合、あるいはONJのリスク因子を有する骨粗鬆症患者に侵襲的歯科治療を行う場合には、骨折リスクを含めた全身状態が許容すれば2カ月前後の骨吸収抑制薬の休薬について主治医と協議、検討することを提唱している。日本口腔外科学会、あるいは韓国骨代謝学会 / 口腔顎顔面外科学会は AAOMS の提唱に賛同しており、さらに国際口腔顎顔面外科学会(IAOMS)も AAOMS の提唱を支持している。 

このように侵襲的歯科治療前の休薬の可否に関しては統一した見解は得られていない。国際的レベルで、医師、 歯科医師、口腔外科医を含むチーム体制での休薬可否に関する前向き臨床研究が望まれる。いずれにしても骨粗鬆 症患者に対する侵襲的歯科治療においては、徹底した感染源の除去と感染予防、そして綿密な計画に基づき、細心の手技を尽くして治療を進める必要がある。 』

また、歯科治療前の感染予防に関しては、「術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン」によるとインプラントや抜歯などの外科処置に対する抗菌薬の使用に際して、「術前1時間前のAMPCなどの抗菌薬投与」推奨されていました。

これらの文献から、骨粗鬆症の治療を受けている患者さんに対して、歯内療法および外科的歯内療法を提供する際に何を伝える必要があるか考察してみました。

・外科処置をする前のBP製剤の休薬の是非において、休薬することにおける有効性を示すエビデンスはない。また休薬することによるデメリットとして、休薬による骨折リスク等の上昇が挙げられる。BP製剤による治療が4年以上である場合は、2カ月前後の骨吸収抑制薬の休薬について主治医と協議、検討する。

・ARONJは歯性感染症がトリガーになっていると考えられるので、術前1時間前のAMPC等の抗菌薬投与が、感染予防の観点から重要である。

・局所感染の持続はリスクであり、感染源の除去を行わず放置することにより骨髄炎に発展する可能性がある。外科処置を行うなら、BP製剤の累積が少ない方が安全に治療できる。

 

骨粗鬆症の治療を受けている患者のお口の中に根尖性歯周炎に罹患した歯がある場合、その炎症が原因で骨壊死が起こる可能性があります。また、骨粗鬆症の治療が長期に渡れば、その分抜歯や根尖周囲の外科治療を行う際の顎骨壊死や顎骨髄炎が生じるリスクが上がります。「症状がないので様子を見ましょう。」というのも1つの選択ではありますが、全身疾患の影響で治療の選択肢が狭まってしまうこともあります。
治療を行う際には、「どうしてその治療が必要なのか?」「放っておくと、どのようなリスクがあるのか?」に対する答えが必要になります。何が起こるかわかりませんので、治療ができるうちに治療しておくのもいいかもしれません。文献や経験をもとに、より患者利益になる治療ができるように引き続き精進してまいります。

 

 

参考文献

1. 米田俊之,荻野 浩,杉本利嗣,太田博明,高橋俊 二,宗圓 聰,田口 明,永田俊彦,浦出雅裕,柴原 孝彦,豊澤 悟.顎骨壊死検討委員会 : 骨吸収抑制 薬関連顎骨壊死の病態と管理 : 顎骨壊死検討委員会の ポジションペーパー 2016.

2. 術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン. 日本化学療法学会/日本外科感染症学会

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