- 再根管治療
できれば自分の歯で咬みたい。奥歯の再根管治療で抜歯を回避した症例。
通院時の年齢 | 40歳 |
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性別 | 男性 |
通院回数 | 3回(初診+再根管治療2回) |
通院目的 | 左下の奥歯の病気があり、抜歯になる可能性があると言われた。歯を抜きたくない。 |
処置内容 | 再根管治療+支台築造 |
費用 | 154,000円+22,000円(※治療当時の費用になります。) |
備考 | 根尖病変及び分岐部病変あり。歯の動揺、しばしば咬合痛あり。 |
一番奥の歯(親知らずは除く)である第二大臼歯の治療は、いつも歯科医師の頭を悩ませます。
・スペースが無いため、器具を入れるのが大変
・舌や唾液が治療を邪魔するため、安全に治療すること自体が難しい
・第一大臼歯ほど口腔内における重要度が高くないため、患者利益を考えると抜歯の方が良い場合もある
上記の理由などにより、治療ができる・できない、治療をする・しない、治療の成功率、費用対効果などの判断基準について、患者さんと十分なディスカッションが必要です。
今回は、できるかぎり自分の歯を残すことを希望され、奥歯の再根管治療にチャレンジされた患者さんをご紹介したいと思います。
初診時
患者さんは左下7が少し揺れており、疲れるとたまに痛みが出たため、かかりつけ歯科に来院されました。
かかりつけ歯科医院でも、再根管治療の話が出たが「よろしければ根の治療を専門的にしている先生に診てもらうのはどうか?」とのご提案を受け、ご紹介されて当院に来院されました。
来院時のカウンセリングでは、以前左下6は根管治療をしたが出血等の症状が治らず抜歯になり、現在はインプラントが入っているとのことでした。
患者さんは「左下6のように左下7の病気を放置していたら、抜歯になるかもしれない・・・」と考えていたため、なんとか治療をして歯を残したいとの希望がありました。
まず、口腔内診査を行ないましたが、左下7は古い銀の詰め物が合着されており、歯周ポケット正常、打診・圧痛はなく、少しの動揺がありました。
デンタルX線画像では、根管内が一部触られていますが、根の先まで清掃されてはいないようにみえます。
CT像を確認すると、根尖部の病変に加え分岐部にも病変が確認できました。
また、近心根は拡大形成などが行われず、未処置である可能性もありました。
①抜歯②再根管治療③経過観察等の選択肢のメリットデメリットをご説明すると、患者さんは「まだ歯を抜きたくはないです。まずは残す方法でなんとか治療して欲しい。」とおっしゃられ、再根管治療をすることになりました。
最後方臼歯であるので器具が物理的に入りずらいこと、そして治らない場合は意図的再植術を行うことを説明し、1日目の診察を終えました。
治療1回目(再根管治療)
まず麻酔を行い、古い銀の被せ物を外し、腐敗したセメントや虫歯を除去していきました。
その後、ラバーダム防湿を行いました。
ファイルが干渉なくスムーズに挿入できるように、ストレートラインアクセスを行い、拡大形成を行いました。
次亜塩素酸ナトリウムを満たした状態で、超音波で攪拌し十分な洗浄をおこなったのちに、水酸化カルシウムを貼薬し仮の蓋をして、1回目の治療を終了しました。
治療2回目
2回目も再びラバーダム防湿を行い仮の蓋を外し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とEDTAを根管内に満たして、超音波振動にて薬液を根管の隅々まで撹拌しながら洗浄を行いました。
バイオセラミックシーラーとガッタパーチャポイントを用いて根管充填、コア用のレジンとファイバーポストによって土台を作製し、中に細菌が入っていかない状況にして治療を終えました。
術後のデンタルX線を撮影し、今後患者さんと共に病変の治癒を確認することをご説明し、治療を終了しました。
経過観察(1年)
術後3ヶ月の時点では、仮歯で過ごしていただいておりました。
咬むと違和感があったり少し歯が揺れている気がするなどの症状はありましたが、術後半年にはほとんどの症状は消失していました。
術後1年の経過観察時、デンタルX線では病変は治癒しているように見えましたが、病変の詳細を確認するためにCT撮影を行い術前術後を比較しました。
根尖病変が治癒し骨が再生しているのが確認できました。患者さんは「抜歯になるかもしれないと聞いていたので、なんの違和感もなく咬めていることがとても嬉しいです。ありがとうございます!」と満足されていました。
抜歯の可能性があった歯が、問題なく咬めるようになっているのを目の当たりにすると、とても嬉しく思います。
引き続き、一本でも歯を抜かずに残せるように、日々精進してまいります。
※これらすべてのX線写真やCT画像は、歯の保存治療普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。