CASE

症例紹介

  • 再根管治療
  • 意図的再植術

ずっと痛みがあり咬めない。できればインプラントではなく、自分の歯で咬みたい。意図的再植術と再根管治療で保存した症例。

通院時の年齢 51歳
性別 女性
通院回数 5回(初診+意図的再植術+経過観察1+経過観察2+再根管治療)
通院目的 ずっと痛みがあり咬めない。歯の保存を希望。
処置内容 意図的再植術+再根管治療(半額)+コア築造
費用 187,000円+88,000円+22,000円
備考 破折疑い。ブリッジの支台。ポケット無し。打診痛、動揺あり。

歯内療法により歯が残せるかどうかの判断基準で重要なものの一つとして、「歯が割れているかどうか、またどのような割れ方をしているか」があげられます。
どんなに残っている歯質がたくさんあったとしても、大きな亀裂とそれに伴う骨欠損や感染がある場合は、保存することが難しくなります。
逆に言えば、破折していない場合は、なんとかなる可能性があります。
今回は、穿孔や破折の可能性が高い病変のある歯の治療において、意図的再植術と再根管治療で対応した症例をご紹介したいと思います。

初診時

患者さんはブリッジが脱離したのを主訴に近隣の歯科医院へ来院されました。
右下7には根尖病変があり、ずっと痛みがあるため咬めないとのことでした。
再根管治療を開始したものの症状が取れなかったため、当院へご紹介され、来院されました。
口腔内診査をしてみると軽度の動揺と打診痛がありましたが、深いポケットはありませんでした。
デンタルX線とCT撮影をしてみると、右下7近心にJシェイプと呼ばれる歯が破折している時によく生じる透過像が見られました。

 

治療にかかる費用や破折のリスク・その際の対応、抜歯になった際の選択肢等も踏まえ、さまざまな治療方針についてご説明しました。
①経過観察
②抜歯してインプラントや入れ歯
③再根管治療を行ない、治らなければ意図的再植術
④抜歯し破折診断をした後、問題なければ意図的再植術、その後再根管治療

患者さんとの相談の結果、④抜歯し破折診断をした後、問題なければ意図的再植術、その後再根管治療を行うことになりました。
意図的再植術そのものに歯が割れたり抜歯のリスクが伴うため、慎重に治療を行う必要がある旨を説明しました。

患者さんは「できる限り自分の歯で咬みたいです。無事に歯が残ってくれることを願ってます。」とおっしゃられ、次回より治療を進めることになりました。

 

 

治療1回目(意図的再植術)

まず浸潤麻酔を行い、歯肉や周辺組織に痛みが出ないのを確認したのち、鉗子にて抜歯を行いました。
マイクロスコープを用いて根尖や歯の周辺を隅々まで、確認しましたが、破折らしき所見はありませんでした。
根尖を切断し逆根管形成を行い、染め出し精査を行いました。
根管が大きく形成されているため、今後薄い根管壁が破折する恐れがありました。
また、側枝や髄管などが原因で分岐部に病変を作っている可能性も否定できなかったため、根尖部だけでなく分岐部も含めて全てMTAセメントで充填しました。

骨窩洞内の肉芽組織を取りきった後に歯を植えなおし、スーパーボンドにて右下7と右下8を固定しました。
幸い破折はなかったため、再度治療方針を患者さんと確認し、次回は右下7の再根管治療を行うことになりました。

 

 

経過観察1(術後2週間)

術後3日ほどは痛みが強く、大きく腫れたとのことでした。
1回目の治療から2週間後に来院していただいた際には、歯肉の状態は安定してきていました。
まだ少し動揺があることも踏まえ、術後1ヶ月の時点で再根管治療を行う旨をご説明しました。

経過観察2(歯が染みる:急患対応)

治療を行なった歯のあたりが染みるとの主訴で来院されました。
意図的再植術を行なった後ろの親知らずが、染みていましたので、知覚過敏の処置を行いました。
処置後は症状は緩和されましたが、染みるのが強くなるようであればかかりつけ歯科医院にて追加で治療が必要になる可能性についてお伝えしました。

 

治療2回目(再根管治療:根管形成〜充填)

意図的再植術1ヶ月後に来院した際は、まだ少し染みていましたがマシにはなっているのことでした。
ラバーダム防湿を行い、根管内を形成し、次亜塩素酸ナトリウムを用いて消毒していきました。
歯質が薄いことを踏まえ、抗菌性があり十分な硬度が期待できるMTAセメントにて根管充填を行い、そのままファイバーポストを伴うレジンコア築造を行いました。
スーパーボンドの固定を外すと若干の動揺がありましたが、このまま経過観察を行うことになりました。

 

 

 

経過観察(意図的再植術後3ヶ月〜1年)

術後3ヶ月では、打診触診を行うと若干の違和感や動揺があったため、コアのまま経過観察を行うことになりました。
術後6ヶ月では、打診や動揺は消失しており、デンタルX線画像上でも治癒傾向が見られたため、最終補綴への移行を提案いたしました。

術後1年の経過観察では、かかりつけ歯科医院様にてブリッジが装着されており、治療した歯におけるポケットや痛みなどの臨床症状はありませんでした。
術前術後1年のデンタルX線画像およびCT画像を比較すると、病変が治癒していることが確認できます。

意図的再植術をおこなった歯をブリッジの支台に使うことは賛否両論ありますが、患者さんの希望も含めてブリッジをされております。

 

患者さんからは「はじめの状態を考えたら、自分の歯で咬めていることが嬉しいです。ありがとうございます。」とのお言葉をいただきました。

今回は幸いにも破折がなく保存することができましたが、歯が割れているかどうかは、実際に外科的な処置で目視にて歯の周りを確認してみないとわかりません。
重度の破折であればデンタルX線やCT画像に写ってくるのですが、そうでない場合は「割れているかも知れないが直接みてみないことにはわからない」と説明することしかできません。

それでも「治療をお願いします!」とチャレンジしてくださり、それが結果として歯の保存につながったことはとても嬉しく思います。
引き続き、歯の保存に関してお困りの患者さんのために日々精進してまいります。

※これらすべてのX線写真やCT画像は、歯の保存治療普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。

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