CASE

症例紹介

  • 再根管治療
  • 意図的再植術

歯茎にニキビができて膿が出てくる。再根管治療だけでは治癒が難しいと判断し、意図的再植術を追加で行なった症例。

通院時の年齢 56歳
性別 男性
通院回数 6回(初診+再根管治療3回+経過観察+意図的再植術)
通院目的 ニキビのようなものができて腫れている。歯はできれば残したい。
処置内容 再根管治療+支台築造+意図的再植術(半額)
費用 176,000円+22,000円+93,500円
備考 エンドペリオ・破折疑い。意図的再植術時に破折の可能性あり。

治療方針を決める際には、基本的には根管治療を先に行って歯の中の状況を改善してそれでも治癒しない場合に外科処置を行います。
しかし、根管治療後の治癒の仕方によっては、その後の外科処置が難しくなるケースがあります。
治療の適切なタイミングを見極めて、起こりうる可能性をご説明した上で方針を決定していきます。
今回は、第一大臼歯の再根管治療を行なったが、口蓋側のサイナストラクトの改善が見られなかったため、頬側の病変の治癒を待たず意図的再植術を行なった症例をご紹介したいと思います。

初診時

患者さんは左上6の奥歯の内側と外側の両方にニキビのようなものができる時があり、腫れたり引いたりを繰り返していることが気になって来院されました。
疲れると痛みが出て膿が出てくるため、このまま置いておいても大丈夫がどうかを気にされていました。
口腔内診査では、若干の動揺と頬側中央・口蓋側に4~5mmのポケットとサイナストラクトが確認できました。
デンタルX線とCT撮影をしてみると、MB・DB・P根の全てに根尖病変が確認でき、以前の根管治療では根尖部まで防腐剤が充填されていないような状態でした。

 

治療方針としては以下をご提案しました。
①抜歯
②経過観察
③再根管治療→歯根端切除術または意図的再植術
治療方針の③をご希望されましたので、まずは再根管治療より進めていくことになりました。
ただし、口蓋根のサイナストラクトが改善しない場合は、頬側の治癒を待たずに意図的再植術へ移行する可能性があること、その際に歯が割れてしまい抜歯になる可能性があること、術後に歯茎が下がってしまう可能性があることについてご説明しご理解いただきました。

治療にかかる費用や破折のリスク・その際の対応、抜歯になった際の選択肢等も踏まえ、さまざまな治療方針についてご説明したところ、最終的に前述の治療方針をご希望されました。

患者さんは「抜くのはいつでもできるので、まずはできる限り保存する方法でよろしくお願いします。」とおっしゃられ、次回より治療を進めることになりました。

 

 

治療1回目(左上6再根管治療)

まず麻酔を行い、左上6の古い銀歯や土台を除去しました。
マイクロスコープで精査をしましたが表面上には破折がなかったため、左上6の再根管治療を続行しました。
歯質が失われている部分をレジン隔壁にて補強し、十分に厚みを確保した後、ラバーダム防湿を行い、超音波チップとニッケルチタンファイルを用いて古いガッタパーチャポイントや感染部分の除去をしていきました。
MB2根管の存在が疑われましたので、入り口を探索を行い広げていくと、MB根管との合流が確認できました。
MB2根管は根尖付近まで、MB根管は合流地点まで追加で形成を行いました。
P根管は、根管の石灰化と以前の根管治療で作られたレッジを攻略できず、穿通はできませんでした。
根管内を次亜塩素酸ナトリウムで洗浄し、水酸化カルシウムを貼薬し1回目の治療を終了しました。

 

 

 

治療2回目(左上6再拡大形成)

2回目来院時には頬側のサイナストラクトは消失していましたが、口蓋根のサイナストラクトは残ったままでした。
P根管を追加で拡大形成を行い十分な洗浄を行い、再度貼薬を行いました。

 

 

治療3回目(左上6根管充填)

来院時、口蓋根のサイナストラクトは残ったままでした。
これ以上の拡大形成は削りすぎてしまう可能性もあるため、歯質保存と治癒の可能性とのバランスから、この時点で根管充填を行うことにいたしました。

次亜塩素酸ナトリウムとEDTAで最終洗浄をした上で、MB・MB2・DB根管はガッタパーチャポイントとバイオセラミックシーラーを用いて、P根管はMTAセメントにて根管充填を行いました。
ファイバーポストを入れてレンジンコア築造を行い、治療を終了しました。

 

 

 

 

経過観察(再根管治療後2週間:オペ説明)

口蓋側のサイナストラクトがまだ残っている状態であることも踏まえ、再度、抜歯・このまま経過観察・口蓋根のみの歯根端切除術・意図的再植術等について、それぞれのメリットデメリットについてご相談いたしました。
患者様は、抜歯のリスクを処置の上で、意図的再植術をご希望されため、次回意図的再植術を行うことになりました。

 

 

治療4回目(意図的再植術)

まずは麻酔を効かせた上で、歯をゆっくりと脱臼させていきました。
歯の根が3本あり、それらが開いて骨に埋まっているため、抜歯時の破折リスクが高い状態でした。
破折を起こさないように、少しずつ力をかけて、ゆっくりと抜いていきました。
無事に歯を割らずに抜歯した後は、根の周りに破折などのトラブルがないかどうかを確認し、根尖を切断して逆側から感染部分を染め出しました。
感染部分を除去し、MTAセメントで逆根管充填を行い、歯を抜いた場所に戻しました。
デンタルX線写真で歯の状態を確認し、問題ないと判断して、その日の治療は終了しました。

 

経過観察(意図的再植術後1年)

術後1ヶ月の時点で、サイナストラクトは消失しており、歯の揺れはなく、打診などの臨床症状もありませんでした。
術後3ヶ月・6ヶ月と臨床症状もなく、デンタルX線画像上でも問題なく経過しましたので、被せ物の装着へと移行していただきました。

 

さらに術後1年の経過観察時に撮影したCT像では病変は治癒傾向を示しておりました。

 

患者さんからは「抜歯にならずに残せてとてもよかったです。ありがとうございます。」とのお言葉をいただきホッといたしました。
第一大臼歯は歯の形態が複雑であることも多く、意図的再植術の適応にならないことも多いですが、今回は幸い無事に手術を行うことができました。

難しい治療ではありましたが、チャレンジしてくださった患者さんの歯を保存することができとても嬉しく思います。
引き続き、抜歯したくない・なんとか歯を残したいと願う患者さんのために日々精進してまいります。

※これらすべてのX線写真やCT画像は、歯の保存治療普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。

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