CASE

症例紹介

  • 再根管治療
  • 歯根端切除術

骨粗鬆症の投薬を始めた患者さん、再根管治療と歯根端切除術にて歯の保存に成功した症例。

通院時の年齢 76歳
性別 女性
通院回数 6回(初診+再根管治療2回+経過観察+歯根端切除術+抜糸)
通院目的 噛むと痛い、少し揺れている感じがする。
処置内容 再根管治療+支台築造+歯根端切除術
費用 154,000円+22,000円+82,500円
備考 骨粗鬆症の薬を飲んでいる。根尖病変あり。穿孔・破折疑い。

抜歯をせずに根管充填されている歯の根尖病変を治癒させる手段は大きく分けて2種類(再根管治療と外科的歯内療法)になります。
しかし、ラバーダム防湿や器具のシングルユースなどの無菌的な配慮があれば成功率が90%程度ある根管治療と異なり、再根管治療の成功率は以前の治療の状態により大きく成功率が異なります。
単純に未処置の部分があるものであれば80%を超える一方、根管形態の破壊かつ病変のある歯においては40%程度まで落ち込みます。
場合によっては、再根管治療を行わずに外科的歯内療法を行った方が良い時もあります。

また、外科的歯内療法もケースにより成功率に違いあり、そもそも物理的に外科ができないような状況もあります。
例えば、全身疾患等により外科そのものが危険である場合や、解剖学的に神経や血管に近接している、あるいは器具が届かない・届いたとしても出血のコントロールが著しく困難な場合など様々なシチュエーションが存在します。

したがって、それぞれの患者さんの歯の状態やバックグラウンドに合わせながら、患者さんにとってより良い治療法を一緒に考えていく必要があります。

今回は、医科の先生との対診や患者さんの希望、外科処置のリスク等を総合的に判断して治療を行い、なんとか保存することに成功した症例をご紹介したいと思います。

 

初診時

患者さんは右下4の歯が噛むと痛い、少し揺れているような感じがするを主訴に来院されました。
口腔内診査では、頬側右下4と5の間の歯頚部にサイナストラクト(ニキビのようなもの)があり、ポケットはないものの、わずかに動揺がありました。
CT上では根尖病変が右下45に渡り広範囲に存在し、頬側の骨も失われている状態でした。
根尖部は拡大がされているが元々の解剖学的構造を逸脱し近心側に穿孔している疑いがあり、場合によってはと破折している可能性もありました。

治療方針として
①経過観察
②抜歯
③治療(再根管治療・外科的歯内療法)
などのついてのメリットデメリットについてお伝えしました。

また、この患者さんは骨粗鬆症のお薬を数ヶ月前にスタートしたところでした。
骨粗鬆症のお薬を服用している場合、抜歯を含める外科処置により顎骨壊死を生じる可能性があります。
ご興味のある方はこちらの記事もご参照いただければと思います。
『骨粗鬆症患者さんに対して、歯内療法および外科的歯内療法をどのように提供にすべきか』

そのため、まずは担当の整形外科のDr.に休薬の時期や期間をご相談することにしました。
すぐにお返事をいただくことができ、再根管治療および外科処置のための休薬のタイミング、病変の治癒をみながら投薬再開の時期などの情報を、患者さんとDr.間で共有することができました。
様々な可能性を考慮し、最初に骨粗鬆症の投薬の中止をしていただき、問題ないと判断した段階で再開していたくことになりました。

患者さんとご相談の結果、まずは再根管治療を行いを治癒しない場合は外科的歯内療法を行うことになりました。

 

治療1回目(再根管治療)

まず麻酔を行い、セラミッククラウンおよびレジンコアを外し、虫歯を除去していきました。
その後ラバーダム防湿がしやすいように、コンポジットレジンにて隔壁を行い、ラバーダム防湿・コーキングおよびヨードと過酸化水素水による術野の消毒を行いました。
超音波チップにてストレートラインアクセスを行い、ニッケルチタンファイルにて拡大形成を行いました。
術前に予想していた通り、根尖部は穿孔しており、そこからの排膿がみられました。

排膿が止まるのを待った後、次亜塩素酸ナトリウムを満たした状態で、超音波チップで攪拌し十分な洗浄を行い、水酸化カルシウムを貼薬し仮の蓋をして、1回目の治療を終了しました。

 

治療2回目(根管充填:MTAセメント

 

前回治療終了後に動揺はある程度改善し、サイナストラクトも消失しておりました。
2回目も再びラバーダム防湿を行い仮の蓋を外し、次亜塩素酸ナトリウム水溶液とEDTAを根管内に満たして、超音波振動にて薬液を根管の隅々まで撹拌しながら洗浄を行いました。
MTAセメントを用いて根管充填、コア用のレジンとファイバーポストによって土台を作製し、中に細菌が入っていかない状況にして治療を終えました。

術後のデンタルX線を撮影し、今後患者さんと共に病変の治癒を確認することをご説明し、治療を終了しました。

 

 

経過観察(再根管治療後1ヶ月)

患者さんと補綴担当のDr.の希望もあり、すぐに被せ物が装着されましたが、その後サイナストラクトと動揺が再発しました。
術前でお伝えしておいた外科治療(歯根端切除術)について再度ご説明し、歯根端切除術を行うことになりました。

 

治療3回目(歯根端切除術

手術前日より抗生剤を飲み始めていただき、感染に配慮しながら手術をスタートいたしました。
歯茎を切開剥離し、根尖部の病変を専用の器材にて除去しました。
根尖切除においては、本来であれば歯軸に対して可能な限り垂直に切りたかったのですが、口腔粘膜や歯牙の生え方などの状況によりベベルをつけざるを得ませんでした。
逆根管形成および逆根管充填(MTAセメント)を行い、縫合しました。
術後にデンタルX線を撮影し、今後患者さんと共に病変の治癒を確認することをご説明し、治療を終了しました。

 

治療4回目(抜糸

術後1週間で糸抜きを行った際は、サイナストラクトは消失、違和感もほぼなくなっていました。
引き続き診ていくことを患者さんにご説明し、経過観察へと移行しました。

 

経過観察(1年)

その後、動揺もサイナストラクト再発もなく順調に経過し、1年の時点では全く気にならなくなっていました。
術後1年の経過観察時にデンタルX線画像上での病変はかなり縮小しており、CT上でも根尖病変の縮小傾向がみられました。

 

CTでも術前にあった根尖病変や頬側骨の治癒傾向が確認できました。
整形外科の先生にも現状をご報告し、骨粗鬆症の薬も再開していただき、現在問題なく過ごしておられます。

「お薬のこともあり、この歯はもうダメかと思いましたが、なんとか抜かずに残してくださりありがとうございます。大事にします!」とお言葉をいただきました。
まだまだこれから経過を診ていかなくてはならない症例ではありますが、一先ず保存できたことを嬉しく思います。
100%成功する治療はありませんが、引き続き大切な歯を少しでも残せるように日々精進してまいります。

※これらすべてのX線写真やCT画像は、歯の保存治療普及のため、患者さんに掲出の同意を得ております。

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